iPhoneホームボタンの修理の研究
iPhone 8以前とSE(第3世代まで)にはホームボタンが付いており、5S以降ではTouch ID(指紋認証)の機能があります。しかし、不幸にしてホームボタンを傷つけるなどして壊れた場合、互換品による修理はできるのですがTouch IDは使えなくなり、ボタンの感触についても純正と変わることがあります。
それでは別の端末から取り出したホームボタンを移植すればいいのではないか?と思っても、ホームボタンには本体とペアになった「指紋シリアル番号」が付いていて、たとえ別のiPhoneから純正のホームボタンを移し替えたとしても、指紋シリアル番号が違うためTouch IDが使えなくなります(ボタンとしても使えなくなります)。
せめてボタンとしては使えるようにと、非正規修理店ではユニバーサルホームボタンという互換品が使用されています。指紋認証はできませんが押せばボタンとして使え、感触もあります。当店でもどうしてもホームボタンの修理が必要な場合はこれを用います。
ある日、いつものように仕入れをしようと携帯修理部品の業者ウェブサイトをのぞいていますと、「指紋シリアル番号の変更をサポート」というホームボタンが売り出されていました。つまり、壊れた純正品の指紋シリアル番号を機械で読み取り、新しいボタンに同じ番号を書くことができるので、iPhone側から見れば同じ番号のホームボタンであるという触れ込みです。
「これでTouch IDが使える修理ができるのでは?」と思い、試しにこのホームボタンを購入しました。また、当店ではV1SEという機械を持っているのですが、これで指紋シリアル番号を読み書きできるボード(小さいプリント基板)をAliExpressで取り寄せました。また、iPhone SE(第2世代)のホームボタンにひびが入っているもの(軽微な損傷なのでTouch IDは使えます)をオークションで購入しました。
これらがすべてそろったら、いよいよ実験です。iPhone SEのパネルを開けてホームボタンを取り出し、ボードをセットしたV1SEに取り付けて指紋シリアル番号を読み取ります。購入した「指紋シリアル番号の変更をサポート」したホームボタンに付け換えて、シリアル番号を書きこみます。すると、指紋シリアル番号が同一になりました。iPhoneにはこの2つのホームボタンの区別はつかないはずです。
期待しながら新しいホームボタンを接続しましたが、結果から言うとTouch IDは使用できませんでした。「このiPhoneでTouch IDをアクティベートできません」というメッセージが出てしまい、Touch IDの設定は失敗します。ただ、ホームボタンとしては使用できるようで感触もあります。今までと同じ、指紋認証の使用できないユニバーサルホームボタンとして使うしかなさそうです。
仕入れたホームボタンの触れ込みには確かに「指紋シリアル番号の変更をサポート」とは書いてありましたが「Touch IDが使えるようになる」とは書いてありませんでしたので、嘘は言っていないのですが、おそらく他のユニバーサルホームボタンと同じで、ボタンに指紋を認識する仕組み自体もないのでしょう。長い間付き合いがあり信用を置いている販売店だけに、優良誤認とまでは言いませんが、このような売り出し方は正直どうかと思いました。
そんなわけで、残念ながら「当店でTouch IDの修理ができるようになりました!」という報告はできませんでした。ですが、これからも修理技術の向上や修理できる範囲の拡大のため、自費を投じてもこういった研究は続けていきたいと思います。